これは、都内の築15年のマンションに住む、ある家族のささやかな後悔の物語です。その家のトイレは、半年前から時折「ゴー」という音を立てるようになっていました。最初は数時間に一度程度だったその音も、いつしか家族の誰もが気にも留めない、日常の背景音の一つになっていました。忙しい毎日の中で、「そのうち直そう」という言葉は、いつまでも実行に移されることはありませんでした。 変化が起きたのは、水道局から届いた一枚の「水道使用量等のお知らせ」でした。検針票に記載された数字を見て、主婦である奥さんは目を疑いました。前回の検針時と比べて、使用量が明らかに跳ね上がっていたのです。その差額は数千円。家族構成に変化はなく、夏場でシャワーが増えたとはいえ、ここまで増えるのは明らかにおかしい。しかし、家の中を見回しても、蛇口から水がポタポタと落ちているような場所は見当たりません。原因がわからないまま、次の検針月を迎えました。結果は同じ、いや、むしろさらに使用量は増えていました。 ここでようやく、奥さんの頭にあの「ゴー」という音が浮かびました。まさかと思い、インターネットで「トイレ、ゴー、音、水道代」と検索してみると、出てくるのは自分たちと全く同じ状況に陥った人々の体験談ばかりでした。原因はタンク内のゴム部品の劣化による、目に見えない水漏れ。あの日常に溶け込んでいた異音こそが、水道メーターを回し続けていた犯人だったのです。 慌てて水道業者に連絡し、修理を依頼しました。作業員は手慣れた様子でタンクを開け、ボロボロになったゴム製のフロートバルブを指さし、「これが原因ですね」と一言。新しい部品に交換すると、あれほど頻繁に鳴っていた「ゴー」という音は嘘のようにぴたりと止みました。修理費用は一万円ほど。しかし、半年間、彼らが気づかずに払い続けてきた無駄な水道料金は、その何倍にも膨れ上がっていました。 「あの時、最初の音に気づいた時にすぐ行動していれば」。それは、家族全員が共有した小さな後悔でした。トイレの異音は、ただの不快な騒音ではありません。それは、家計に静かにダメージを与え続ける、放置してはいけない明確な警告なのです。この家族の体験は、私たちに「後回し」の代償がいかに大きいかを教えてくれています。
トイレのゴー音を放置した末路、ある家族の体験談